CMP装置の国内・海外の動向

なぜ今、CMP装置の「国内動向」が注目されるのか

近年、米中対立によるサプライチェーンの再編や、日本国内での次世代半導体工場の建設など、半導体業界は大きな変革期を迎えています。このような状況下で、日本のCMP装置業界はどのような立ち位置にあり、今後どこへ向かうのでしょうか。

ここでは、グローバルな文脈の中で日本のCMP装置市場の「現在地」と「未来」を多角的に解き明かします。市場規模のデータ比較から、技術トレンド、地政学リスクがもたらすサプライチェーンの構造変化を解説していきます。

データで見る日本のCMP装置市場

市場規模で比較!世界における日本の立ち位置

まず、グローバル市場におけるCMP装置の現状を見ていきましょう。世界のCMP装置および消耗品を含む市場は、拡大を続けており、装置単体でも2023年時点で約23億ドル規模と推計されています。今後もAIやデータセンター需要を背景に、年平均成長率(CAGR)5~7%の安定した成長が見込まれており、複数の市場調査機関が2030年前後には40億ドル規模に達するとの予測を示しています。

地域別に見ると、世界の半導体生産拠点である台湾、韓国、中国、そして日本が位置するアジア太平洋地域が圧倒的な需要を誇ります。この構図から、アジアがCMP装置市場の成長を牽引していることが分かります。

※情報参照元URL:Credence Research公式サイトhttps://www.credenceresearch.com/report/chemical-mechanical-planarization-market

研磨用途別
CMP装置メーカー3選を見る

CMPの技術トレンド

半導体の微細化・多層化が進むにつれて、CMP装置に求められる技術レベルも飛躍的に向上しています。現在の主要な技術トレンドは、以下のキーワードに集約されます。

原子レベルの平坦性を実現する「高精度化・均一化」技術

最先端の半導体では、もはやナノメートル単位の凹凸も許されません。この要求に応えるため、ウェーハ全面に均一な圧力をかける技術が進化しています。例えば、ヘッドとウェーハの間に薄い空気の膜を作る「エアフロート式ヘッド」は、低圧でも安定した均一な研磨を可能にします。また、ウェーハの場所ごとに研磨圧力を細かく調整する「ゾーン制御」技術も一般化し、パターンによる研磨ムラを最小限に抑えます。

さらに、研磨が適切な厚さで止まったことを検知する「光学式エンドポイント検出」技術も高度化しています。これにより、削りすぎによる欠陥や材料の無駄を防ぎ、歩留まり向上に大きく貢献しています。

多様化するニーズに応える装置設計

製造ラインのスペースは限られており、装置の省スペース化は常に求められる課題です。メーカー各社は、性能や機能を向上させながらも、装置のフットプリント(設置面積)を縮小する設計にしのぎを削っています。

一方で、大学や企業の研究開発(R&D)部門向けに、大型の量産機とは異なるニーズも生まれています。新材料や新プロセスの評価を手軽に行いたいという要望に応え、数百万円から導入可能な「卓上型CMP装置」も登場。これにより、研究開発から量産まで、幅広い用途に対応する製品ラインナップが形成されています。

新材料・新プロセスへの対応力

半導体の性能向上のため、配線材料は従来の銅(Cu)から、抵抗の低いコバルト(Co)やルテニウム(Ru)へと移行しつつあります。また、チップを縦に積み重ねる3D NANDメモリや、異なる機能を持つチップ(チップレット)を高密度に積層する「先端パッケージング」など、構造も立体化しています。

これらの新材料・新構造に対応するため、CMP装置も進化を続けています。特定の材料だけを選択的に、かつ高速に研磨できる新しいスラリー(研磨剤)や、研磨パッドの開発が進んでいます。従来は「前工程」の技術だったCMPが、チップを組み立てる「後工程」でも不可欠な技術となり、その適用範囲を広げているのです。

データ駆動型へ進化する「スマート化」の潮流

近年の製造業全体のトレンドである「スマートファクトリー化」の波は、CMP装置にも及んでいます。しかし、これはAIが自律的に判断するというよりも、膨大なデータを活用してプロセスの精度と再現性を極限まで高める「データ駆動型の高度なプロセス制御」と捉えるのが正確です。

具体的には、研磨ヘッドに内蔵されたセンサーが研磨中の膜厚をリアルタイムで監視する「In-situ(インサイチュ)計測」技術が実用化されています。このデータに基づき、装置のコントローラーが研磨圧力などを自動調整し、最適なタイミングで研磨を停止させることで、ウェーハ内・ウェーハ間のばらつきを極限まで抑えます。

さらに、装置群から収集した膨大な稼働データをAI技術で分析し、故障の予兆を検知する「予知保全」や、最適なプロセス条件を導き出すといった、よりインテリジェントな活用も進んでいます。これらの技術は、人手不足の解消や熟練技術者への依存を減らし、工場の生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。

サプライチェーンの課題と地政学リスク

グローバルに展開される半導体産業において、CMP装置のサプライチェーンは常に様々なリスクに晒されています。

米中対立がもたらす市場の「二極化」

近年、最も大きな影響を与えているのが、米中間の技術覇権争いです。米国政府は安全保障を理由に、最先端の半導体製造能力に繋がる技術の中国への流出を厳しく制限しています。これは「14nmプロセス以下」といった単純な線引きではなく、ASML社のEUV露光装置のように代替不可能な「戦略的チョークポイント」となる装置の輸出を狙い撃ちにする、より精密な規制です。

日本政府もこの動きに追随し、2023年7月には外為法に基づき23品目の先端半導体製造装置を輸出管理の対象に追加しました。このリストにCMP装置は名指しされていませんが、露光やエッチングといった中核装置がなければ先端ファブは建設できないため、結果として日本のCMP装置メーカーも最先端機を中国市場へ販売することが困難になっています。

この規制は、グローバル市場の構造的な「分断」を加速させています。一方で米国とその同盟国が支配する最先端技術市場、他方で中国が巨額の国家投資で推進する成熟・レガシーノード(28nm以上)市場という「二極化」です。中国では、NAURA(北方華創)やHwatsing(華海清科)といった国内装置メーカーが急速に技術力をつけ、成熟ノード市場で強力な競合として台頭しています。 将来的には、これらの中国企業が価格競争力を武器にグローバル市場へ進出してくる可能性は極めて高く、日本のメーカーは新たな競争戦略を迫られています。

サプライチェーン強靭化と「戦略的不可欠性」の追求

特定の国への過度な依存がもたらす脆弱性への反省から、日本政府は経済産業省を中心に、半導体サプライチェーンの強靭化を強力に推進しています。これは単なるリスク回避(守り)ではなく、国家としての「戦略的不可不可欠性」を再構築しようとする攻めの産業政策です。

「サプライチェーン強靭化支援事業」などの大規模な補助金を通じ、国内の生産拠点強化や研究開発を後押ししています。この戦略を象徴するのが、成熟プロセスを担うTSMC熊本工場(JASM)と、次世代2nm半導体の国産化を目指す国家プロジェクト「Rapidus」です。 これらの巨大ファブは、装置・材料メーカーにとって安定的かつ大規模な国内需要を創出するだけでなく、関連産業や人材が集積するエコシステムの核となることが期待されています。

高まる環境規制とCoO(総保有コスト)

CMPプロセスは、大量の純水と化学薬品を使用し、研磨後の廃液が発生します。世界的に環境規制が強化される中、この廃液の適切な処理やリサイクルは、メーカーにとって重要な経営課題です。

この動向は、単なる企業の社会的責任(CSR)の問題から、経済合理性の問題へとシフトしています。半導体メーカーが装置を選定する際に最も重視する指標の一つが、装置の生涯コストを示す「CoO(Cost of Ownership)」です。環境負荷の低減は、水や薬品の使用量削減に繋がり、CoOの削減に直結します。環境性能に優れた装置を提供できることは、顧客のランニングコストを直接引き下げる明確な競争力となっているのです。

【将来展望】日本のCMP装置市場の未来を読み解く

市場規模の未来予測:日米中はどう動く?

グローバル市場は緩やかな拡大基調が継続

今後もCMP装置のグローバル市場は、緩やかな拡大を続けると予測されます。半導体デバイスの構造がますます複雑化・多層化することで、ウェーハ1枚あたりのCMP工程数自体が増加しているためです。AI、6G通信、IoTといったメガトレンドが半導体需要を押し上げ、それに伴いCMP装置への投資も継続的に行われるでしょう。

CHIPS法で活気づく米国市場と国産化で粘る中国市場

各国の動向を見ると、米国では「CHIPS法」の巨額補助金を背景に巨大ファブの建設ラッシュが起きており、今後数年間、世界で最も活発な装置市場となることが確実視されています。

一方、中国市場は米国の輸出規制により先端装置の導入が難しい状況が続きますが、成熟ノードの生産能力拡大と装置の国産化に巨額の投資を続けることで、独自のサプライチェーンを構築し、市場としての存在感を維持するでしょう。

日本の市場とメーカーの展望

日本国内では、TSMC熊本工場の稼働・拡張や、Rapidusのプロジェクトが新たなCMP装置需要を生み出します。

しかし、日本メーカーの主戦場はあくまでグローバル市場です。高い技術力と信頼性を武器に、日本メーカーは海外市場での成長を目指すことになります。活況を呈する米国市場、規制の対象外となる中国の成熟ノード市場、そして今後成長が期待されるインドなど、世界中の需要を地政学的な視点から的確に捉えていく戦略が求められます。

価格・コストとサプライチェーンのこれから

高付加価値化による価格高止まりと二極化

最先端プロセスに対応する高性能なCMP装置は、開発コストを反映して今後も価格は高止まりするでしょう。一方で、中国勢が台頭する成熟ノード向け市場では価格競争が激化し、市場は高付加価値な先端機と、コスト重視の汎用機へと二極化がさらに進むと見られます。

CoO重視と「ソリューション提供型」ビジネスへの転換

ユーザー企業は、装置の生涯コストである「CoO」をますます重視するようになります。これに応え、装置メーカーのビジネスモデルも変化しています。装置を売り切るのではなく、消耗品供給やメンテナンス、プロセス最適化までを含めて提供する「サブスクリプションモデル」は、もはや可能性ではなく、市場リーダーが中核戦略として推進する現実です。これにより、メーカーは単なる装置販売者から、顧客の成果にコミットする「ソリューションプロバイダー」へと変革を遂げつつあります。

地政学リスクに対応し、より強靭で持続可能なサプライチェーンへ

世界が動く中、装置や部材の国産化・調達先の多元化はさらに加速します。同時に、高度な技術課題を解決するため、装置メーカーと材料メーカー、あるいは競合同士が特定の分野で協業する動きも活発化するでしょう。自社のコア技術は厳格に保護しつつ(クローズ)、特定の課題解決のためには連携する(オープン)、というハイブリッドな戦略が主流になります。

顧客層の未来図:多様化するニーズにいかに応えるか

主要プレイヤーの継続投資と新興勢力の台頭

TSMCやIntelといった巨大プレイヤーの投資が市場を牽引する構図は変わりませんが、日本のRapidusのような国策ファウンドリや、インドなどで勃興する新興プレイヤーが新たな需要源として重要性を増していきます。

本格化するOSAT・実装分野と新興国市場

先端パッケージング市場は、今後の半導体業界における最大の成長ドライバーの一つです。これに伴い、OSAT企業がCMP装置の主要顧客となる未来が現実味を帯びています。また、インドや東南アジアでのファブ建設計画が具体化すれば、そこにも新たなビジネスチャンスが生まれます。

装置販売から「ソリューションプロバイダー」への変革

顧客層が多様化する中、もはや「良い装置」を開発・販売するだけでは十分ではありません。ファウンドリには歩留まり向上のレシピを、OSATには実装基板の研磨ノウハウを、新規参入企業には立ち上げ支援を。それぞれの顧客が抱える課題を解決する「ソリューションプロバイダー」へと変革していくことが、装置メーカーに求められる未来像です。

研磨用途別
CMP装置おすすめ3選
研究開発用の基板
試作したい
北川グレステック
DCMシリーズ
北川グレステックのCMP装置 DCMシリーズ
引用元:北川グレステック公式HP
(https://www.kitagawagt.co.jp/product/925/)
特徴

柔軟性と高い機械剛性を備え、角チップも取り付け可能。金属・酸化・窒化膜、ベアウエハはもちろん材料や関連商品などの研究開発向けに、試作の細かな調整がスムーズに行える卓上型CMP装置。

ウェーハ
サイズ
チップサイズ
~150mm
\研究開発用の基板に/詳細を公式HPで
確認する
安定した量産体制
確立したい
荏原製作所
F-REX300X
荏原製作所のCMP装置 F-REX300X
引用元:荏原製作所公式HP
(https://www.ebara.co.jp/products/details/FREX300XA.html)
特徴

自動研磨機能と4つのテーブルを使ったデュアルモジュール構造で効率的な半導体製造の歩留まり向上を実現。安定した品質と高い生産効率を提供。

ウェーハ
サイズ
~300mm
\生産体制の安定に/詳細を公式HPで
確認する
大型基板の加工精度
向上させたい
岡本工作機械製作所
PNX1200
岡本工作機械製作所のCMP装置 PNX1200
引用元:岡本工作機械製作所公式HP
(https://www.okamoto.co.jp/polishing-machine)
特徴

大型基板の高密度配線やTSV(貫通電極)プロセスの複雑な構造に対応した450mmウェーハ用では世界初※の全自動CMP装置。ポリッシュ取り代量の多い工程でも、安定した研磨性能。

ウェーハ
サイズ
~450mm
※参照元:岡本工作機械製作所公式HP(https://www.okamoto.co.jp/polishing-machine)
研磨用途別
CMP装置3選