ダイシングとは?半導体製造の重要工程を解説

ダイシングとは?半導体製造における役割と基礎知識

ウェーハを「ダイ」に切り分ける重要工程

ダイシングとは、半導体製造工程において、回路が形成された円盤状のウェーハを個々のチップ(ダイ)に切り分ける工程のことを指します。この名称は、材料をサイコロ状に切り出す「Dice」という言葉に由来しています。スマートフォンやPC、自動車などに搭載されるあらゆる半導体チップは、このダイシング工程を経て初めて、私たちが手にする電子デバイスの部品として機能する形になります。

単に切断するだけでなく、ミクロン単位の極めて高い加工精度が求められるのがダイシングの特徴です。近年のデバイスの小型化・高密度化に伴い、切りしろ(カーフ幅)を最小限に抑えつつ、欠け(チッピング)やひび割れ(クラック)といった加工ダメージを防ぐ技術が、製品全体の歩留まりを左右する極めて重要な要素となっています。

前工程(BG)と後工程(ダイボンド)を繋ぐ役割

半導体製造フローにおいて、ダイシングは「前工程」の最終段階、あるいは「後工程」の始まりに位置付けられます。一般的には、ウェーハを薄く削る「バックグラインド(BG)」工程の次に行われます。ウェーハが薄くなればなるほど、切断時の衝撃による破損リスクが高まるため、前後の工程との整合性を考慮した加工条件の設定が非常に重要視されます。

ダイシングによって個片化されたチップは、その後、吸着・ピックアップされて基板へ固定される「ダイボンド」工程へと送られます。近年では、パッケージの薄型化要求に応えるため、「先ダイシング(Dicing Before Grinding)」などの特殊なプロセスも普及しています。これは、あらかじめ溝を入れた後に裏面を研磨して個片化する手法で、切断時の裏面欠けを抑制する効果があります。このように、ダイシングは製造ライン全体の最適化に関わる重要な結節点といえます。

代表的なダイシング工法の原理と特徴

ブレードダイシング

ブレードダイシングは、ダイヤモンド粒子を電着させた極薄の円形刃(ブレード)を高速回転させ、ウェーハを物理的に削り取る最も一般的な手法です。この工法は「フルカット(完全に切り離す)」だけでなく、深さを制御した「ハーフカット」も容易に行えるため、半導体パッケージから電子部品まで幅広い用途で採用されています。

装置の構造がシンプルで導入コストを抑えやすい反面、物理的な接触を伴うため、切断時の摩擦熱や振動による「チッピング(欠け)」が発生しやすいという課題もあります。また、ブレード自体の厚みによって「切りしろ(カーフロス)」が生じるため、チップ間の間隔(ストリート)を一定以上に保つ設計が必要です。加工時には冷却と洗浄を兼ねた純水が不可欠となります。

レーザーダイシング

レーザーダイシング(アブレーション加工)は、高エネルギーのレーザーをウェーハ表面に集光させ、素材を瞬時に蒸発(昇華)させて溝を形成する工法です。非接触加工であるため、ブレードのような機械的ストレスがかからず、非常に細い切りしろで加工できるのが特徴です。

特に極薄ウェーハや硬脆材料の加工に適していますが、熱による「熱影響層(HAZ)」が発生し、チップの抗折強度が低下する懸念があります。これを防ぐために、近年では超短パルスレーザーを用いて熱影響を最小限に抑える技術も進化しています。加工速度が非常に速く、複雑な形状の切り出しにも対応できる柔軟性が大きなメリットです。

ステルスダイシング

ステルスダイシングとは、ウェーハ内部にレーザーを集光させ、内部に「改質層(ダメージ層)」を形成した後、テープを拡張(エキスパンド)させてチップを分離する工法です。なお、「ステルスダイシング」は浜松ホトニクス株式会社の登録商標です。

表面を削らないため、加工屑(デブリ)が発生せず、洗浄工程を簡略化できるのが最大の強みです。また、切りしろがほぼゼロに近い状態で個片化できるため、1枚のウェーハから取れるチップ数を最大化できます。SiC(炭化ケイ素)などの透過性のある硬い素材に対しても、極めて高い品質での切断が可能です。

プラズマダイシング

プラズマダイシングは、化学反応(ドライエッチング)を利用してストリート部分を除去する、「切らない」ダイシング手法です。レジストなどで保護されていない部分を一括で処理するため、チップの数や形状に関わらず、短時間で全チップを個片化できる圧倒的なスループットを誇ります。

機械的・熱的なダメージが一切ないため、チップの抗折強度が非常に高いことが特徴です。特に、RFIDタグやセンサーなどの微小チップ、あるいは円形や多角形といった複雑な形状のチップ製造において大きな優位性を持ちます。装置コストは高めですが、歩留まり向上と生産性の観点から採用が進んでいる次世代の工法です。

【素材別】最適なダイシング工法の選び方

シリコン(Si)ウェーハにおける標準的な選択

半導体材料として最も普及しているシリコンウェーハでは、ブレードダイシングが第一選択となるのが一般的です。コストパフォーマンスに優れ、厚みのあるウェーハでも安定した速度で加工できるため、多くの量産現場で採用されています。ただし、ロジックICやメモリなどでチップサイズが極小化している場合や、デバイスの薄型化が進んでいるケースでは、物理的な負荷を避けるためにレーザーやプラズマダイシングへの移行が検討されます。

特に、ウェーハ厚が100μmを切るような極薄ウェーハの個片化においては、ブレードによる裏面の欠け(バックサイドチッピング)が大きな課題となります。これを解決するために、あらかじめ溝を彫ってから裏面研磨で切り離す「DBG(Dicing Before Grinding)」プロセスを導入するか、非接触で加工可能なステルスダイシングを選択することで、製品の品質と歩留まりを劇的に向上させることが可能です。

SiC・GaNなどの「硬脆材料」への最適解

次世代パワー半導体として注目されるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)は、非常に硬くてもろい「硬脆材料」であり、従来のブレード加工では刃の摩耗が激しく加工速度も遅いという難点があります。無理に高速で切断しようとすると、深刻なチッピングやクラックが発生し、チップの抗折強度が著しく低下してしまいます。そのため、これらの素材ではレーザーダイシング、特にステルスダイシングの活用が非常に有効です。

ステルスダイシングであれば、素材内部に直接働きかけるため、硬い表面に邪魔されることなく精密な分割が可能です。加工屑が出ないため、高価な化合物半導体ウェーハのクリーン度を保てる点も大きなメリットです。また、ダイヤモンドブレードを用いる場合でも、SiC専用の高剛性な極細ブレードや加工条件の最適化により、品質とコストのバランスを取る手法も確立されつつあります。

ガラス・サファイア・セラミックスの加工ポイント

光学部品やLED基板に用いられるガラス、サファイア、セラミックスといった素材は、透明度や絶縁性などの特性を持つ一方で、熱衝撃や振動に非常に弱いという側面があります。例えばガラスの場合、ブレード加工では縁がボロボロと欠けやすく、アブレーションによるレーザー加工では熱割れが発生しやすい傾向にあります。こうしたデリケートな素材には、冷却効率を高めたブレード加工や、超短パルスレーザーによる非熱加工が推奨されます。

特にサファイアのように極めて硬度が高い素材では、ダイヤモンドの番手(粒度)や結合材(ボンド)の選定が加工品質を左右します。素材の硬さに負けない切れ味を維持しつつ、切断面の平滑性を確保するためには、装置の回転数や送り速度を細かく制御しなければなりません。素材の厚みや用途(見た目の美しさ重視か、強度重視か)に応じて、最適な工法を使い分けることが重要です。

ダイシングにおける代表的な不良と改善策

チッピング(欠け)を最小限に抑えるには

チッピングとは、切断の衝撃や摩擦によってウェーハの表面や裏面の縁が細かく欠けてしまう現象です。特にブレードダイシングで発生しやすく、チップの抗折強度(折れにくさ)を低下させる大きな要因となります。表面に発生する「フロントチッピング」は回路を破壊するリスクがあり、裏面に発生する「バックサイドチッピング」は、後の実装工程での破損に繋がるため、厳格な管理が求められます。

対策としては、まず加工条件の最適化が不可欠です。ブレードの送り速度を下げ、回転数を調整することで衝撃を緩和できます。また、使用するブレードの番手(ダイヤモンド粒子のサイズ)を細かくすることも有効です。さらに、冷却水(純水)の流量や噴射角度を微調整し、加工点での発熱と振動を徹底的に抑え込むことが、欠けのない美しい切断面を実現するための近道となります。

クラックの発生メカニズムと対策

クラックは、切断時に加わる機械的な圧力や、レーザー加工時の急激な熱膨張・収縮によって発生する「ひび割れ」です。一度クラックが発生すると、製造工程内での搬送中や、製品として市場に出た後の温度変化によってひびが進行し、最終的な動作不全を招く恐れがあります。目に見えない微細な内部クラック(マイクロクラック)も存在するため、外観検査だけでなく構造的な視点での対策が重要です。

機械的ストレスに起因する場合は、ブレードの切れ味を維持するためのドレッシング(目立て)を頻繁に行い、加工抵抗を下げることが有効です。熱ストレスが原因のレーザー加工においては、短パルスレーザーを採用して熱影響層(HAZ)を最小化する、あるいは非熱加工であるステルスダイシングへ転換するなどの抜本的な見直しが効果を発揮します。素材の特性に合わせた「低負荷な加工」の選択が、クラック防止の鍵を握ります。

カーフ幅による材料ロスの低減法

カーフ幅とは、ダイシングによって削り取られる「切りしろ」の幅を指します。ブレードダイシングでは、ブレード自体の厚みに加えて左右の振れ幅分がロスとなるため、1枚のウェーハからより多くのチップを切り出すためには、このカーフ幅をいかに細く設計できるかがコスト競争力に直結します。特に高価な化合物半導体ウェーハでは、わずか数ミクロンの差が全体の収益に大きな影響を与えます。

ロスを最小限に抑えるには、極薄ブレードの使用や、非接触で加工できるレーザーダイシングの導入が推奨されます。なかでもステルスダイシングは、理論上の切りしろがほぼゼロであるため、チップの間隔(ストリート幅)を限界まで狭めることが可能です。これにより、ウェーハ1枚あたりの有効面積が拡大し、歩留まりの大幅な向上が期待できます。微小なチップを大量に生産する用途ほど、工法選びによるロス削減のメリットは大きくなります。

「自社導入」か「受託加工」、判断のポイント

装置導入(内製化)が推奨されるケースとコスト感

ダイシング装置を自社で導入する最大のメリットは、生産スケジュールの柔軟な管理と、長期的な加工コストの低減にあります。一定以上の量産規模がある場合、外注費用を払い続けるよりも、自社設備として保有する方が1チップあたりの加工単価を抑えることが可能です。また、独自の加工ノウハウや回路設計などの機密情報を社外に出したくないという、セキュリティ上の理由から内製化を選択する企業も少なくありません。

ただし、装置導入には本体価格だけでなく、クリーンルームの維持費やユーティリティ(純水供給や廃液処理)、熟練したオペレーターの確保といった付帯コストが発生することを忘れてはなりません。特に、ステルスダイシングやプラズマダイシングなどの高度な装置は導入のハードルが高いため、投資回収期間(ROI)を慎重にシミュレーションする必要があります。プロトタイプから量産フェーズへの移行期が、自社導入を検討する最適なタイミングといえます。

受託加工(外注)のメリットと委託先選定の基準

一方で、受託加工(外注)は、研究開発段階(R&D)や多品種少量生産において非常に有効な選択肢となります。自社で高額な設備投資を行うリスクを避けつつ、専門業者の高度な加工技術を即座に利用できるのが利点です。特にSiCやサファイアといった難削材の加工には、特殊なブレードの選定や条件出しが必要となるため、経験豊富な加工ベンダーに依頼することで、立ち上げ期間を大幅に短縮し、歩留まりを確保することができます。

外注先を選定する際の基準としては、単なる加工単価だけでなく、対応可能な素材の幅と検査体制を重視すべきです。ダイシング後の洗浄品質や、チッピングを定量的に評価できる検査設備が整っているかを確認しましょう。また、試作から量産までシームレスに対応できるか、あるいはトラブル発生時の技術的なフィードバックが迅速かどうかも、長期的なパートナーとして信頼できるかを判断する重要なチェックポイントとなります。

まとめ:自社の要件に合わせた最適なダイシング環境を

ダイシングは、ウェーハからチップを切り出す単なる切断工程ではなく、製品の歩留まりや信頼性を左右する極めて重要なプロセスです。汎用性の高いブレード加工から、難削材に適したレーザーやステルス、高品質なプラズマダイシングまで、それぞれの特性を理解し、素材や厚みに応じた最適な工法を選択することが、製品寿命やコスト競争力の向上に直結します。

加工不良への対策や、内製化と外注の判断には、専門的な知見と精緻なシミュレーションが欠かせません。現在の課題を解決し、理想的な加工環境を構築するためには、装置メーカーへの相談やテスト加工を通じたデータ蓄積が成功への近道となります。本記事を指針として、自社の要件に合致した最適なダイシング環境の実現を目指してください。

ダイシング装置について詳しく見る

研磨用途別
CMP装置おすすめ3選
研究開発用の基板
試作したい
北川グレステック
DCMシリーズ
北川グレステックのCMP装置 DCMシリーズ
引用元:北川グレステック公式HP
(https://www.kitagawagt.co.jp/product/925/)
特徴

柔軟性と高い機械剛性を備え、角チップも取り付け可能。金属・酸化・窒化膜、ベアウエハはもちろん材料や関連商品などの研究開発向けに、試作の細かな調整がスムーズに行える卓上型CMP装置。

ウェーハ
サイズ
チップサイズ
~150mm
\研究開発用の基板に/詳細を公式HPで
確認する
安定した量産体制
確立したい
荏原製作所
F-REX300X
荏原製作所のCMP装置 F-REX300X
引用元:荏原製作所公式HP
(https://www.ebara.co.jp/products/details/FREX300XA.html)
特徴

自動研磨機能と4つのテーブルを使ったデュアルモジュール構造で効率的な半導体製造の歩留まり向上を実現。安定した品質と高い生産効率を提供。

ウェーハ
サイズ
~300mm
\生産体制の安定に/詳細を公式HPで
確認する
大型基板の加工精度
向上させたい
岡本工作機械製作所
PNX1200
岡本工作機械製作所のCMP装置 PNX1200
引用元:岡本工作機械製作所公式HP
(https://www.okamoto.co.jp/polishing-machine)
特徴

大型基板の高密度配線やTSV(貫通電極)プロセスの複雑な構造に対応した450mmウェーハ用では世界初※の全自動CMP装置。ポリッシュ取り代量の多い工程でも、安定した研磨性能。

ウェーハ
サイズ
~450mm
※参照元:岡本工作機械製作所公式HP(https://www.okamoto.co.jp/polishing-machine)
研磨用途別
CMP装置3選