MEMSプロセスにおけるCMP(化学機械研磨)とは?

MEMS CMPとは?半導体CMPとの違いと重要性

MEMSプロセスにおけるCMPの役割と目的

MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)の製造プロセスにおいて、CMP(化学機械研磨)は、積層した構造の表面を平坦化する工程として使われます。センサーやアクチュエーターなどのMEMSデバイスは、シリコン基板上に複数の層を重ねて作られるため、下層の段差が残ると、その上のリソグラフィ、エッチング、成膜の精度や設計の自由度に影響します。

米国のSandia National Laboratoriesの報告では、CMPなどの平坦化技術をMEMSに適用する利点として、多層ポリシリコン構造の作製で生じる加工上の問題の軽減や、非平坦な表面形状に起因する設計上の制約の解消が挙げられています。同報告には、マイクロエンジン、圧力センサ、加速度計用プルーフマス、マイクロエレクトロニクスとのモノリシック統合などの利用例が示されています。

参照元:Sandia National Laboratories, "Planarization techniques for MEMS: enabling new structures and enhancing manufacturability"(OSTI/https://www.osti.gov/biblio/434366)※発行年は本文に明記がなく、報告書番号(SAND--96-2845C)から1996年頃と推測されます。

また、複数のウェハを重ね合わせるウェハボンディング(ウェハ接合)の前処理としても、CMPによる平坦化が検討されます。この点は、後述の「ウェハ接合を成功させる表面平坦化技術」で整理します。

一般的な半導体CMP(CMOS)との違い

MEMS向けのCMPが一般的な半導体(CMOS)向けのCMPと異なるのは、主に次の3点です。

扱う材料や膜厚が増えるほど、スラリーやパッドの選定、研磨条件の調整は個別の検討が必要になります。

参照元:VTT, "Advanced CMP processes for special substrates and for device manufacturing in MEMS applications"(Aalto University/https://aaltodoc.aalto.fi/items/0d12a21a-f7fe-4896-ace8-1e7c44374f2a)

MEMS CMPで対応が求められる主要材料と技術的課題

厚膜SOI・ポリシリコン・酸化膜の平坦化

VTTの研究では、MEMS用途のCMPとして、厚膜SOIウェハ、厚膜ポリシリコン、堆積された酸化膜、および金属など熱に敏感な材料を含む多層積層構造が対象とされています。課題としては、次の点が挙げられています。

手法としては、固定砥粒(Fixed Abrasive)パッドを用いた研磨と研削技術の組み合わせ、大面積パターンのMEMSの全面平坦化、厚膜ポリシリコンの平滑化を目的とした専用のCMP工程などが検討されています。

参照元:VTT, "Advanced CMP processes for special substrates and for device manufacturing in MEMS applications"(https://aaltodoc.aalto.fi/items/0d12a21a-f7fe-4896-ace8-1e7c44374f2a)

ディッシングを抑える2段階CMP

パターンの幅が広い部分では、凹部が過度に削られる「ディッシング」が課題になります。2007年のICPT(International Conference on Planarization / CMP Technology)で発表された研究では、MEMS向けのポリシリコンCMPにおいて、2段階のCMPによりディッシングを抑える手法が報告されています。

この報告では、最大幅1250μmのパターンでもディッシング量が30nm未満に抑えられたとされています。実際のプロセスでは、パターン、材料、装置により結果が異なるため、一例として参考にしてください。

参照元:Shin et al., "Reduction of Dishing in Polysilicon CMP for MEMS Application by Using protective Layer and High Selectivity", ICPT 2007(https://vde-verlag.de/proceedings-en/563065066.html)

厚膜研磨における研磨量の制御

MEMSでは、半導体の薄膜プロセスより厚い膜を研磨するケースがあります。除去量が多い工程では、研磨レートだけでなく、ウェハ面内の厚みのばらつきや、狙った残膜厚に止められるかが課題になります。残膜厚を管理する手段として、研磨中の終点検知(エンドポイント検出)などが用いられます。装置や機能の違いは、各メーカーの仕様で確認することが大切です。

MEMS特有の課題:構造保護と洗浄

メンブレンや中空構造に配慮した低荷重の考え方

MEMSデバイスには、感度を高めるための薄いメンブレン(膜)、可動部となるカンチレバー、内部に空洞を持つ中空構造などがあります。こうした構造では、一般的な半導体CMPの条件をそのまま適用すると、構造体に負荷がかかるおそれがあります。そのため、構造体の強度に応じて荷重を抑えた条件を検討することが基本です。対応できる荷重範囲や制御方式は装置ごとに異なるため、対象デバイスの構造をもとに、メーカーへ試験加工を相談するのが現実的です。

スラリー残留とスティクション(固着)への配慮

MEMSには、深いトレンチ(溝)や複雑なキャビティ構造が多くあります。こうした構造では、CMPで使用したスラリー(研磨液)の粒子が残りやすく、洗浄の設計が課題になります。また、MEMS一般の課題として、洗浄後の乾燥時に液体の表面張力で可動部が固着する「スティクション(Stiction)」が知られており、その対策は特許などで多数提案されています。CMPのポスト洗浄では、洗浄方式に加え、乾燥までを含めたプロセスで構造への影響を確認する必要があります。

※スティクションの一般的な説明は、MEMS分野で広く知られた課題としての記述です。本ページでは特定の対策手法の効果は断定していません。

ウェハ接合(ボンディング)を成功させる表面平坦化技術

表面粗さと平坦性の考え方

MEMSの製造では、複数のウェハを重ね合わせる接合が、中空構造の封止や三次元積層に使われます。接合方式によって求められる表面状態は異なりますが、ある技術解説では、融合接合(フュージョンボンディング)には0.5nm未満のRMS粗さが必要とされ、その達成手段としてRCA洗浄やプラズマ活性化などが挙げられています。同解説では、CMPは表面の平坦性を確保する工程として位置づけられています。

参照元:Incure, "Process Optimization for MEMS Wafer Bonding"(2026年3月15日公開、同年8月30日更新/https://incurelab.com/wp/process-optimization-for-mems-wafer-bonding)※企業の技術解説であり、数値は一次の学術・規格資料では未確認です。

また、シンガポールA*STARのIME(Institute of Microelectronics)が2023年のIEEE EPTCで発表した研究では、直接酸化膜接合において、CMPがボイド(未接合部)のない接合を実現するうえで重要な要素であり、接合品質はCMP条件と密接に関連すると示されています。この研究はCu/誘電体のハイブリッド接合を対象としたもので、MEMSに限った内容ではありませんが、接合前のCMPの重要性を示す参考になります。

参照元:A*STAR IME, "Optimization of the CMP process for direct wafer-to-wafer oxide bonding", 2023 IEEE EPTC(https://oar.a-star.edu.sg/communities-collections/articles/20536)

接合に向けたCMPの位置づけ

VTTの研究では、厚膜SOIウェハの作製において、低温での直接ウェハ接合の実現が課題の一つとして示されています。熱に弱い材料を含むデバイスでは、高温プロセスを避けたい場合があるため、接合前の表面状態を整える工程としてCMPを組み込む検討が行われています。

なお、接合前の表面処理は、CMPに加えて洗浄やプラズマ処理を組み合わせて設計するのが一般的です。研磨後の表面状態、リンスから乾燥までの流れ、接合方式ごとの要件を、工程全体で確認することが重要です。

開発フェーズや目的に応じたMEMS CMPの選択基準

MEMSプロセスにおけるCMPは、扱う材料や構造によって条件が変わるため、開発フェーズや生産規模に応じて、外部委託か内製化かを検討する必要があります。以下は、検討時の判断軸の一例です。

1. 試作段階やインフラが整っていない場合は「外部委託(受託加工)」

デバイス開発の初期段階や、排水処理・クリーンルームなどの付帯設備が社内にない場合は、受託加工の利用が現実的な選択肢です。委託先を選ぶ際は、対応できるウェハサイズや材料、加工前後の測定・検査体制、洗浄工程の内容を確認しましょう。受託加工の選び方は、別ページで詳しく解説しています。

2. 開発のスピードや機密性を重視する場合は「装置の導入(卓上型など)」

独自のスラリー配合や添加剤の試験、機密性の高い工程の検証を社内で進めたい場合は、研究室やラボへの装置導入が選択肢になります。少数の角チップや異形ウェハ、多様な薬液を扱えるかなど、装置の仕様と対象ワークの相性を確認することが大切です。

3. 量産移行を見据える場合は「再現性」と「量産機との条件差」を確認

研究開発用に導入した装置で決めたレシピ(荷重や回転数など)を、量産用の装置へ移すときは、研磨レートや面内均一性が変わる可能性があります。試作段階から、量産機との装置構成の違い(ヘッド、プラテン、制御方式など)を確認し、条件をどこまで引き継げるかを、メーカーに相談しておくと手戻りを抑えやすくなります。

まとめ:MEMS CMPは材料・構造・接合の要件を整理して検討を

MEMSプロセスのCMPは、材料の種類、膜厚、構造の脆弱さ、その後の接合や洗浄といった、デバイスごとの条件によって要件が変わります。平坦化の目的、ディッシング対策、洗浄・乾燥、接合前の表面状態といった論点を整理したうえで、受託加工、卓上型、据え置き型のどれが自社の開発フェーズに合うかを判断することが大切です。

対象デバイスの構造や材料が決まっている場合は、候補となるメーカーや受託加工先に、試験加工や条件の相談を行い、測定データをもとに比較検討することをおすすめします。本記事が、MEMS開発におけるCMPの検討の一助となれば幸いです。

CMP装置のメーカーを見る

このメディアでは、CMP装置の導入を検討している企業向けにさまざまなCMP装置メーカーを紹介しています。

TOPページではウェーハサイズと研磨用途別にCMP装置メーカーを比較して掲載していますので、装置選定の参考としてご活用ください。

\研究開発・安定供給・大型基板対応/ 研磨用途別
CMP装置メーカー3選を見る

研磨用途別
CMP装置おすすめ3選
研究開発から
小・中規模量産
まで見据えたい

北川グレステック
DCM/ARWシリーズ

北川グレステックのCMP装置 DCM/ARWシリーズ
引用元:北川グレステック公式HP
https://www.kitagawagt.co.jp/product/product_cat/semiconductor/
特徴

研究開発からプロセス開発、小規模量産までを見据えたシリーズ。チップサイズから300mmまで、用途に合わせて段階的に検討しやすい構成です。

ウェーハ
サイズ
チップサイズ
〜300mm
安定した量産体制を
確立したい

荏原製作所
F-REXシリーズ

荏原製作所のCMP装置 F-REXシリーズ
引用元:荏原製作所公式HP
https://www.ebara.co.jp/products/details/FREX300XA.html
特徴

200〜300mmの中規模〜大規模量産を見据えたシリーズ。安定した生産体制を重視するCMP工程で比較しやすい領域です。

ウェーハ
サイズ
200〜300mm
大型基板の加工精度を
向上させたい

岡本工作機械製作所
PNXシリーズ

岡本工作機械製作所のCMP装置 PNXシリーズ
引用元:岡本工作機械製作所公式HP
https://www.okamoto.co.jp/polishing-machine
特徴

300〜450mmの中規模〜大規模量産を見据えたシリーズ。大口径ウェーハや大型基板の高精度加工を重視する場合に比較しやすい領域です。

ウェーハ
サイズ
300〜450mm
研磨用途別
CMP装置3選